突然のスコール≪八月二十八日≫(十四日目) ―壱―今日で、ここバンコックですることは、全て終った。 完全休養日だ。 ホテルを基点に、タイ大丸、アートコーヒーと喫茶店巡りだ。 チェンマイに行って来た岡本女史が帰って来たようだ。 この日は女史とは、ロビーでもタイ大丸でもアートコーヒーでも、顔 を合わせることになった。 何もすることがない日本人旅行者の行く所は、決まっているらしい。 ロビーでは。 岡本女史「あの~~。明日日本に発つんですけど、今20$紙 幣しか持っていないんです。良かったら、10$紙幣 二枚と交換してくれませんか?今日一日で20$も使 えないと思うんで・・・・・。」 俺 「良いですよ!席は取れたんですか?」 岡本女史「ハイ!何とか取れました。」 俺 「良かったですネ!」 タイ大丸の日本書籍の店では。 俺 「コンニチワ!」 岡本女史「アラ?・・・(笑って)・・日本の本が読みたくっ て・・。」 俺 「でも、もうすぐ日本に帰るんでしょ。」 岡本女史「・・・・そうですけど・・・。」 マレーシア・ホテルにいる日本人は、時期的に見てこれから日 本に帰りたくて、ウズウズしている人たちが集まってくる。 皆、一様にエアー・サイアム(航空会社・帰国して数年でつぶれてし まった。)の安い、安全じゃない往復のオープンチケット(空いてれば乗れ る。)を持っていて、そのほとんどがリザベーション(予約)できなくて、 キャンセル待ちしている学生がほとんどである。 そういえば、日本ではもうすぐ二学期が始まる。 岡本女史はそのキャンセル待ちが取れたようだ。 ジェナスをでると、あれほど乾ききってた道路のはずなのに、 水でもまいた様に湿っている。 スコールが来たようだ。 雨季が済んだばかりだと言うのに、時々こうしたスコールが来る。 喫茶店で本を読んでいた我々には全く気が付かなかった。 濡れた舗道を強い陽ざしが照りつける。 歩いてホテルへ向かった。 すると、タイの青年が話し掛けてきた。 タイの青年「コンニチワ!日本の方ですよね。」 俺 「ええ!」 タイの青年「来年、私、日本に、行きます。」 すこしばかりの日本語と英語をチャンポンにして話し掛けてくる。 ”何が目的だ?” 日本人旅行者に話し掛けてくるタイの男は詐欺師背あり、女は 娼婦かこれまた詐欺師である。 それは、タイのスコールのように突然襲ってくるものなのだ。 気をつけたほうが良い。 夕食をとり、ホテルに戻ってくると、また空模様が怪しくなっ てきた。 雷が鳴り始め、ザー!!という音とともにスコールがやってくる。 バケツの水をひっくり返したようとはこのことだ。 どうもこのところ、夕方から夜に掛けてスコールが多い。 悪いことばかりではない。 スコールのお陰で、夜を涼しく迎えることが出来るのだ。 今日は本屋で、俺の好きな井上靖著の”楼蘭”を買ってきた。 明日は日曜日。 特別にする事もない。 今までの旅の資料も、今日日本に送った。 (結局、届かなかったけど。) 昨日書いた彼女への第二段の手紙も投函する事が出来た。 * 過去を終い 未来を見つめ 現在に生きる |